story

あなたの私

ある程度動かして男は満足したようだった。


「とりあえず何処にも異常はなさそうだ」


どうやら私の体におかしなところがないかチェックしていたらしい。
私の腕から手を離ししゃがみ込むと床に置かれていた大きなやわらかい布を手に取り、おもむろに私に被せた。


「まだお前の服はないんだよ、少しの間これで我慢して」


被せた布を滑らせると体に巻き付け胸のあたりでピンを止める。
少し胸が締め付けられて苦しいような感じがした。
私の胸はなかなかのボリュームがあるようだ。
下を向いても足や腹部が見えないし、腕を動かされたときなんか腕と胸がぶつかったりもした。


「さすがにFカップはデカいな。
布を巻いても形がわかるし。」


大きく張っている胸部を男が指で突く。
布を巻き付けられているせいで逃げ場のない胸が指の力で押される。
張りがあるわりにそれは柔らかいようで、軽い力でも簡単に形を変えた。
胸を突かれるのは身を捩りたいような何とも言えないくすぐったさがある。
まぁ、私の体は動かないのだけれど。


「さてと」


男は私の正面で、じっと私を見つめた。


「やっぱかわいいな」


つい、といった感じで男の口元が綻ぶ。


「いやいや、そうじゃない」


きりっとした真面目顔に戻る。


「俺のドールなんだし、ちゃんと名前を付けないとな」


男はそう言った。


(俺の、ドール・・・?)


今聞いた単語を反復する。
ドール、人形のことだ。
最初からある程度の知識や言葉を持ち合わせているため、それくらいは私でもわかる。


(私、この人のドール・・・お人形なの・・・?)


全てのピースがうまくはまったような感じがした。
人の形をしたもの、それが私なのだろう。
声が出ないのも、体が動かないのも、すべては私が人形だからだったのだ。


(この人が私のご主人様なのね)


そう思うと必死に頭を悩ませている目の前の男がなぜかとても愛おしくなった。
この人が主人だという事実はまるで体に吸い込まれるように、もともとそう決まっていたかのように、私の中に波紋のように広がり、そして染み入る。


(そうだ、私はこの人のために生まれたんだもの)


初めて男を見た時に思ったことは間違いじゃなかった。
いろんな気持ちが溢れて胸がいっぱいで、伝えたくなる。
あなたの為に来たんだよ、あなたの私なんだよって。


(言えないのが、もどかしいな・・・!)


自分の意思で伝えることができないことは、残念だと思う。
できるなら今すぐにでも抱きしめてご主人様と呼びたいのだから。


「うーん、そうだなぁ・・・何がいいかな」


私の気持ちなんてちっとも知らず、目の前のご主人様は腕を組んで考え込んでいる。
そんな姿も妙に愛おしく、ずっと眺めて居たいようなこちらを見てくれないことが歯がゆいような何とも言えない気持ちになるのだ。

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