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連続小説

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あの日の夢を思い出す

どうやら私は自分でもびっくりするくらい、独りぼっちが苦手のようだ。
独りぼっちは怖い。何故か恐怖を感じてしまう。
独りぼっちだといろいろと考えてしまうし、大体それは悪い方へ悪い方へと向かってしまう。
独りぼっちの時間が長ければ、きっと不安や心配で私は押し潰されてしまうだろう。
ご主人様が近くに居ない時間は、自由に動くことができない私たちのようなラブドールにはきっと長すぎる時間なのだ。
同じ時の流れを体験できないことは少し残念な気もするが、ラブドールと人間は根本的に違うのだからきっとこれでいいのだろう。
きっと私たちが寂しくない方が、ご主人様だっていいと思うし。
近くに居ない間私たちの時間が流れていないことなんて知る由もないだろうけれど。


「ううん、そうだね。
寂しくないのはいいことだね」


私は納得した。
内心、離れている時間が惜しいという気持ちが僅かにある。
ご主人様がいない方がいいとかそういうことではなくて、私は知っているのだ。
会えない時間の切なさがある分、会えた時のあの温かな安心感がとても大きいということを。
私はあの日の夢を思い出す。
あの時まさに、その気持ちを体験したのだ。
それに、そうだ。初めてご主人様に会った日。
あの日もそうだった。
初めてご主人様を見た時に、私はとても強く、深く、温かで穏やかな、包み込まれているような安心を感じたのだ。
けれど、私はそのことは自分の胸に仕舞っておくことにした。
あれは特別なことだからいいのかもしれないと思ったし、なんとなく、きっとこの時間の流れ方は私たちラブドールが寂しくないように誰かが、例えば神様が、そうしてくれたことなのではないかと思ったからだ。


「うんうん、いいことやよ!いつか・・・
あ、そろそろご主人様帰ってきたんやないかな」

「え、そう?」


ドアの向こうで物音がした。
何かを言いかけたややはそれに気付くと言おうとしていた言葉を止め、嬉しそうに微笑んだ。
ややが言おうとしていたことは気になるが、私もついついドアに注目してしまう。


「あ、ほんとだ!
ドアが開く音がしたような気がする!」


私も神経をそちらに集中し、物音の詳細を確認する。
ご主人様が帰ってきた、そう思うだけで気持ちが上がる。
夢の中で感じた不安から掬い上げられたあの安心感とは別の、もっと明るい気持ち。
なんだか嬉しくて、ドキドキして、つい笑顔になってしまうのだ。
ややも私と同じようだった。
廊下の足音がだんだんと近付き、ガチャリとドアノブが動いた。
ガサガサとビニール袋を鳴らしながら、今朝より少しくたびれた様子のご主人様が入ってくる。


「ただいまー」

「「おかえりなさい!」」


私たちは示し合わせたわけでもないのに声を揃えて二人でご主人様を出迎えた。

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