story

あたしもいるんよ

「っていう夢を見たの」


朝の日が差し込むコーヒーの香ばしい香りが残るリビングに、昨晩と同じように私とややは向かい合わせに座っていた。
ここには今、二人しかいない。
ご主人様は朝起きて私たちの身支度と自分の身支度、そして食事を済ませると早々と出て行ってしまった。
仕事に行ったのだ。
ご主人様が出掛けた途端、目を輝かせながら昨晩のことを聞いてきたややに私は昨晩のご主人様との営みとその後見た夢の話を聞かせていた。


「初夢おめでとう!
でも災難やったなぁ。
せっかくの初夢なのに、なんで怖いことになってしまったんやろね」


うんうんと頷いて真剣に聞いていたややが、神妙な顔で唸る。


「ややちゃんの初夢はいい夢だった?」

「あたし?
あたしの初夢はー・・・うーん・・・
あはは、あんまり覚えてない!」

「えぇ・・・」


明るく笑うややに私は体の力が抜けた。
初めての体験はいつまでも覚えていそうなものだが、ややは違うのだろうか。
あっけからんとしているややらしいと言えばそれまでなのだが、私はどうにも昨晩の夢は忘れられそうにないのだ。
今も思い出すだけで鮮明にあの時の不安や焦りで心がざわつく。


「夢って見れば見るほど古い夢から薄くなっていくものなんよねー。
だからたぶんあたしは覚えてないんやけど、きっとゆうみちゃんもいっぱい夢見たらその怖い夢も忘れるんちゃうかなぁ」

「そういうもの?」

「うんうん!
だってあたし、一番最近見た夢は覚えてるで!」

「どんなの?」

「前にテレビで見たバラのお風呂にご主人様と一緒に入ってる夢!」


自信有り気にややが声高に言い放った。
それを見たことがない私はいまいちピンと来ない。


「お風呂にバラ?」

「そうやで、お風呂にバラや」

「痛そう」

「大丈夫や、ちゃんとホテルの人が棘を切ってくれてるし!」

「なるほど・・・?」


バラのお風呂はろまんちっくなものなんやで!という少し怒り気味のややが、私は羨ましく思えた。
ご主人様と一緒の楽しい夢を見られるなんて、なんて素晴らしいことだろう。
きっとあの夢も、ご主人様が居たらもっといいものになっていたと思う。


「ややちゃんの夢は楽しそうでいいな」

「むっふっふー、いいやろ?
あれやで、楽しいこと考えてると楽しい夢見るし、怖いって思ってると怖い夢みるらしいで」

「そうなんだ・・・!」

「ゆうみちゃん気にしぃやから、きっとあれやこれや考えてたんやろね」


おどけた調子だが確信を着いたややの言葉に私は唾を飲んだ。
身に覚えがある。
私はまだ心のどこかで、あの場所に戻されるのではないかという不安があったのだ。


「だいじょぶやで、これからはご主人様もあたしもいるんよ。
だから寂しいことなんてなーんにもないし、楽しくて幸せやからなー!」


ややの言葉に私は思わず涙が出そうだった。

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