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違う雰囲気

廊下に出たのは初めてだった。
リビングの光がドアに嵌められた擦りガラス越しにうっすらと差す薄暗い空間は少し埃っぽいような、リビングとは違う匂いがする。
ご主人様は廊下の電気は付けなかった。
リビングを出てすぐの白塗りのドアを開けて、私を抱えたままそこに入る。
どうやらここが風呂場のようだ。
というか、洗面所だろうか。
ややには申し訳ないが、初めての場所に私はワクワクしてしまっている。
リビングや寝室とは全く違う雰囲気、匂い。
大きな鏡の付いた洗面台が入ってすぐに視界に入った。
中は広くはなく、ただでさえ窮屈な場所に洗濯機が置かれ洗濯物が干されており、身動きがとれるスペースは半畳もないだろうか。
その狭いスペースにはマットが敷かれており、おそらく風呂から出た際に水気を吸収するものだろう。
とすると、洗面台の横にあるその曇りガラスのドアが浴室なのだろう。
久しぶりに風呂掃除をしたと言っていたが、今居るこの場所は洗濯物が干されてはいるが、目立った汚れなどは見当たらず洗面台もぴかぴかでその周りに置かれた備品類やタオルを置く場所はきちんと整理整頓されている。
さっきやったばかりだからなのか、普段から洗面所は掃除をしているのだろうか。
わからないが、やはりご主人様はマメな人なのだろうと思った。


「とりあえずここに、と」


ご主人様は洗濯機に私を立て掛け、まず自分の服を脱いだ。
一度見たことがあるとは言えど、電気の明かりの下で見ると何故だか照れくさい。
私はラブドールなのだからそんなことは気にしなくていいはずなのに、妙に意識してしまうのだ。
身動きができないため視線を反らすこともできず、かと言ってまじまじと見つめるわけにもいかず、私は視線を泳がせた。
完全にご主人様が視界から外れることはないが、凝視するよりは幾分かましに思える。
ご主人様は着ていた衣類をすべて脱ぐと、私を少し移動させ自分の衣類を洗濯機の中へと放り込み、私の纏う布に手を掛けた。
容易くそれを取り払い、手早く畳むと私が座っていた位置に置く。


「明日服が届くけど一晩裸ってわけにはいかないから、お風呂から上がったらまたこれで我慢してくれよ」

(服!
わぁ・・・!)


私は歓喜した。
とうとう私も服が着られるのだ。
どんな服なのだろう、ややの着物のような素敵な服なのだろうか。
この布も正直言えば肌触りがよく嫌いではないが、服にはかなわない。
何故だか服というものは無性に私の心を引き付けるのだ。
明日届くという私の服に思いをはせていると、鼻先をむわりと熱い蒸気が掠めた。
ご主人様が洗面台の横のドアを開けたのだ。
まとわりつくような湿気が溢れ、暖色の明かりに照らされた浴室の輪郭が徐々にはっきりとする。

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