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知識

なんだか生き物の唸り声のようにも聞こえる気がした。
けれどこの部屋には私以外居ないはず。
ご主人様たちは寝室へ行ってしまったし、あれ以降ドアが開く音は無かった。
ご主人様はペットなんて飼っていないし、ペットじゃない何か小動物でも居るのだろうか。
でも、そんなものは見たことがない。
そもそもこの部屋は野生の動物が居るような場所ではないのだ。
外に出たことはないから言いきれないけれど、でも窓の外の景色を見る限りこの部屋は少なくとも2階以上にある。
もしかしたら天井裏や壁の間をねずみくらいは通っているかもしれないけれど、ねずみはこんなふうに低くは唸らないだろう。


(おかしいよ、絶対。
寝室ではこんな音聞こえたことないもん。
それに動物だったら、夜行性だとしても完全に夜しか動かないってこともないだろうし、お昼にもきっと少しは足音が聞こえたりするはず)


私は数日前にほんの少しだけ見た害獣駆除のドキュメンタリーを思い出していた。
あれは夜行性の小動物だったけれど、昼間に餌を求めて出てきた所を捕まえていた。
動物は人間とは時間の流れの感じ方が違うから、夜行性でも夜しか動かないなんてことはないのだと駆除業者の人が言っていたのを覚えている。
そこまでややと楽しくお喋りをしていたからそれ以前に何を言っていたかは覚えていないし、その後すぐにチャンネルを変えられてしまったからその後は観てないのだ。


(あのテレビ、もっときちんと観ておくんだった)


私は後悔した。
あの時はまさかあの番組がこんなところで役に立つなんて思わなかったのだ。
テレビは色々な知識を与えてくれる。
知っていれば色々なことを考えることができるし、ご主人様の言っていることやややが話していることを理解することができる。
今まではそれだけだった。
まさか、知識が安心を得るための武器になるなんて思いもしなかったのだ。


(せめて相手が何かが解れば、そんなに怖くないのに。
あのまま観ていれば、こんなふうに鳴く動物も出てきたかも)


正体がわからないというのはとても不気味だ。
ただでさえ暗闇の中で、部屋の隅なんかは吸い込まれそうなほど暗い。
見つめているとそこから何か出てきそうだ。
私の理解が及ばない様な、不気味な何かが。
私は身震いした。
できるだけ考えないようにしているのに、それの事を考えてしまう。


(まだ違うって決まったわけじゃない!
あれはきっと動物だよ、だって、そうじゃないと・・・)


もし動物じゃなかったら。
だとしたら、アレしかない。
私はあまり暗闇を見ないよう、ぎゅっと目を瞑った。
もしそこにいたとしても、目を瞑れば見えるはずはない。
けれど、目を瞑ると余計に怖い想像をしてしまう。

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