story

鈍感

無くなってしまった時間はいったいどこへ行ってしまったのだろう。
その間の私は今の私と同じ私なのだろうか。
すとんと無くなってしまった私たちの時間、その間の事を私は考えていた。


「ご主人様ならわかるかなぁ」


知らず知らずのうちに私は呟いていた。
ぼんやりと宙を見つめていたややがそれを拾う。


「んー、どうやろなぁ。
ご主人様にもそういうことってあったりするんかな?」

「ご主人様は時間がすっと無くなるなんてことないかもしれない?」

「ないかもしれんね。
あたしらはラブドールだから同じ感覚があるかもしれないけど、ご主人様は人間やし・・・。
あとご主人様って鈍感やからそういうの気付かなそうなんよね」


ややは肩をすくめて困ったように眉を寄せた。
ややの方がご主人様と長く一緒にいる分、いろいろ知っているのかもしれない。
でも、私はご主人様を鈍感だとは思えなかった。
ご主人様は私のことをとってもよく知っているし、一緒にいるときは心を寄せてくれる。
とても丁寧に扱ってくれるし、身体のお手入れや座るときの体勢いろいろと細かく気遣ってくれるのだ。
そんな人が鈍感だというのだろうか。
もしかしてややに対しては扱いが違ったりするのだろうか。
でも、ご主人様に限ってそんなことはないだろう。
ご主人様の優しさはいつだって平等だった。
どちらかを特別扱いなんてしない。
まだ数日しか一緒にいないけれど、いつだってややにも私にも同じように接してくれていた。
ややには伝わってないんだろうか。
私はなんだか心がもやもやして、ややの言葉に強めな反応をしてしまう。


「ご主人様は鈍感なんかじゃ、ないと思うけど・・・っ。
私はけっこう繊細な人だと思うよ。
色々と私たちの事とか考えてくれてるし」

「えー、鈍感やよぉ。
そりゃあたしらのことは色々と細かいことに気ぃ付いたり毎日毎日マメな人やなーとは思うけど、自分のことはぜーんぜんやもん。
自分のことは全然見えてないやろ?髭とかじょりじょりでも気にせんし、そういうとこだけじゃなくってこの前もゆうみちゃんを箱から出した時、気付いたら夕方だったって言ってたしなぁ。
色々鈍いんよね、ご主人様は。
だからきっと自分の時間がすとんっとなくなっとっても気付いてないと思うで?」

「ええぇぇ・・・」


口では呆れたような反応を示したが、本当は内心ややの主張も頷ける点は多かった。
そう言われると確かにご主人様は自分の事にはあまり関心がないみたいに思うし、マイペースでぼんやりして見えるところがあるのだ。


「そう言われると、そうかもしれないけど」


私はうなだれた。
私はご主人様のラブドールなのに、ご主人様に欠陥があるような認識をしてしまうことが、ご主人様に悪いことをしているような悲しい気分になってしまう。

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