story

ハカセ

「え、そりゃ、入れるで・・・?
お風呂やもん」


ややは何を当たり前のことを言っているのだと言わんばかりの様子だった。
どうして私が驚いているのか理解ができないようだ。
彼女の様子からすると、ラブドールがお風呂に入るというのはさも当然の事らしい。
それほど確実に、お風呂の時は一緒に連れて行ってもらっているということなのだろう。


「そうなの?
でも、お風呂もシャワーも変わらないと思うんだけどなぁ。
どっちも身体を洗うためにすることだし。
シャワーは連れて行ってもらえないのに、お風呂は連れて行ってもらえるの?」

「んん、あ、そうか。
ゆうみちゃんにとってシャワーとお風呂がおんなじなんやね。
言われてみたら、確かに」


私の質問にややはうんうんと頷いた。


「なるほど。
しゃーないなー、おねーちゃんが説明してあげよか」


ややはわざとらしく、少し大袈裟な口調でそう言った。
実際はそんなことを思ってはいないのだが、何かに成りきっていると言ったふうである。
私もそれに乗って、


「教えておねーちゃん!
お願いします!」


と少し大袈裟に言ってみた。
そんな返しをしたのは初めてだ。
ややは私が乗ってくるとは思っていなかったのだろう、一瞬驚いたがすぐにその設定に戻り、声色を気取った感じに変えてわざとらしい咳払いをひとつすると話を続けた。


「おっふぉん!私のことはハカセ、と呼びたまえ。
それでは説明しようじゃないか。
お風呂とシャワーはね、全然違うのだよゆうみ君。
ゆうみ君の言う通りどっちも身体を洗うことには変わりないんじゃが、お風呂は湯船にお湯を入れてご主人様と一緒に体を洗ってお湯に浸かるのじゃよ。
シャワーは洗うだけだから連れて行ってもらえないけれど、お風呂はゆっくりじゃから一緒でも大丈夫なのじゃ」

言い終わると博士、もといややは得意げにえっへんともう一つ咳払いをする。
何の博士なのかはわからないが、これが彼女の中の博士のイメージなのだろう。
彼女が博士と言うことは私の位置付けは助手か生徒と言ったところだろうか。


「そうなんですね、博士!
博士はよくご主人様とお風呂に入るんですか?」

「んーと、そんなにいつもじゃないけどお風呂の時は一緒やで!」


設定に乗ったにも関わらず、ややは既にその遊びに飽きたのか素で返事をした。
嫌ではない、嫌ではないのだがなんだか悔しいような恥ずかしいようなやるせないような気持ちになってしまい、私は思わず押し黙ってしまった。
ここで負けてはいけない、一言何か言おう。そう思った時だった。


「いやー、あっついあっつい」


額に汗をかき顔を手のひらで仰ぎながら、腕まくりをしたままのご主人様が戻ってきた。
その姿を見た私は出かかっていた言葉をごくりと飲み込んだ。

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