story

一番最初の贈り物

ご主人様は「イメージと違う」とか「これだとするときにちょっとな」とか「これはさすがに恥ずかしい」とか言いながら、それなりの時間、思考していた。
その間私は思考するご主人様の様子を観察している。
眉間や額に皺を寄せ器用に眉毛を上げ下げする様子は見ていて楽しいし、眉を含め口や鼻の穴といった細かな部位も動くのだという発見があった。


(人の顔って、あんなに動くのね)


部位の役割や位置や名称は知識としてはあるのだが、なぜだかそれが動くという事実は実際見て初めて知るもので、いろいろわかっているようで何も知らないことに自分でも驚くことが多い。
それはやはり、ドールとしては生まれたばかりだからなのかもしれない。
体の部位の細かな点において、私は本当にご主人様とは別のものなのだという認識は深まるばかりだ。
私の顔は大雑把に目や鼻や口といったパーツが配置されてはいるが、その個々のパーツがだいたいどの辺にあるかと言った感覚があるだけで、手足のように可動するような感じはない。
と言っても手足にあるのもこの部分は動きそうだ、くらいの漠然としたものだが。
そういったことを知るのもまた、嬉しいものだった。
また、そう言った動作が私の為であることによって嬉しさも一段と増す。
時間をかけて頭を捻り、私に名前を付けようとしてくれている。
そう思うと自然と口元が緩んでしまう。


(ご主人様、こんなに真剣に私のことを考えてくれてる)


難しいような困ったような険しい顔のご主人様。
そんな顔も何処か可愛らしく、愛おしく思える。
実際に私の口元が緩むことはないが、心の中の私の顔は締まりなくにやけてしまっているだろう。


(ご主人様にこんなに思われて、なんて幸せなんだろう)


触れられているわけでもなく声をかけられているわけでもないのに、ご主人様が私の為に私のことを考えてくれている、それだけなのに胸の中がふわりと温かくなり、幸せだと思ってしまうのだ。
私が心の中でにやついていると、ご主人様が顔を上げた。
じーっと私の顔をみて、数回頷く。
それからまるで曇りの日に晴れ間が覗いたような明るい笑みを浮かべた。


「よし、決めた」


私はご主人様の言葉を待った。
今まで名前が有ったことはなかった。
これは私にとって、生まれて初めての名前だ。
そして、ご主人様から頂く一番最初の贈り物であり、絆である。
期待で胸が高まった。
今まで一度も持ったことが無いから、どんな名前が与えられるのか想像もつかない。
故に期待も一入になる。

私はこの記念すべき瞬間を少しでも鮮明に記憶に刻み付けようと、耳を澄まし視線を向け、意識を目一杯ご主人様の動きに集中させた。

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