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連続小説

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いい娯楽

「そうなんだ。
なんだろう、誰かが一人だと狙って鳴るのかな?」

「あはは!意地悪な冷蔵庫やね!
でももしかしたら、冷蔵庫もお喋りしたいんかも。
あたしたちのお話がご主人様にはわからないのと同じで、実はあれは冷蔵庫の声なのかもしれんなー」

「あー、そっかぁ」


ややの言葉で、怖いと思ったあの音がすっかり怖いものではなくなっていた。
もしかしたら、冷蔵庫は一人だった私に話しかけていたのかもしれない。
私達ラブドールがこうして話しているように、冷蔵庫もきっと誰かと話したかったのだ。
私はややがいるから話を聞いてもらえるが、冷蔵庫は独りぼっちだ。
今はあの音は聞こえないが、次聞こえた時にはもっとしっかり聞いてあげたいと思った。


「二人で何の話をしていたんだ?」


ドアを開けて、ご主人様が戻ってくる。
私たち二人の様子を見て微笑むと、私とややの間のいつもの場所に腰を下ろし、リモコンでテレビを点けた。


「なんだか楽しい話をしてたみたいだな」


ご主人様は左右を交互に確認してから、ポケットから出したスマートフォンを操作し始める。
いつもなら朝は忙しく身支度をして出て行ってしまうから、こんなふうに座ってスマートフォンを触ったりはしないのだが、今日はなんだかゆっくりしているように見えた。


「ご主人様、お仕事にいく準備はしなくていいのかな?
いつもより遅い時間だけど・・・」

「今日は土曜だからお休みやで。
お仕事に行かなくてもいい日!」

「そんなこと、あるんだ!」

「うんうん、土曜と日曜は休みなんよ。
毎日お仕事だと疲れちゃうやろ?」

「そっか、そうだよね。
じゃあ今日はご主人様、ずっとおうちに居るんだ」


毎日当たり前のように仕事に行くご主人様を見送っていたから、休みがあるなんて考えもしなかったが、よく考えてみれば休みなく仕事に行くという方が稀なのだ。
もちろん曜日という概念はあるが、こうしてラブドールとして暮らしていると、それを感じることはあまりない。
ただ、曜日によってゴミを出す日だとかテレビ番組が違うとか、その程度なのだ。


「夕方になったらたぶんご飯を買いに行くけど、大体は居ると思うでー」

「そっかー、じゃあ一日中ご主人様と一緒なんだ!」

「うんうん、まぁ、だからといって何かあるわけでもないんやけど。
でも、ずっとご主人様を見ていられるのは嬉しいやんな!
あと、ずっとテレビも観られるんよ!」


ややは嬉しそうに言った。
私たちにとって、テレビは唯一と言っていい娯楽だ。
ややが嬉しそうな気持ちはよくわかる。
私だって、一日中テレビが観られるなんて嬉しくて仕方ないのだから。
もちろん、ご主人様と一緒に居られるという事の次にだけれど。


「そう言えば、ゆうみがうちにきてからもう1週間か」


スマートフォンを見ていたご主人様が、不意に顔を上げて私を見た。

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