story

意思なるもの

(どうして・・・?)


私は口に触れてもっとよく確認しようと、腕に力を籠めた。
動かし方がわからないから、力を込めて上腕を持ち上げるイメージを頭の中に浮かべる。


(動かない・・・)


口と同じく、腕も何の反応も示さなかった。
ならばと足や腹、体の各部分に意識を集中する。


(やっぱり、だめ・・・)


意識を向けて、初めて気が付いた。
口や、手や、足が、自分の意思では動かないことを。
手や足があるという感覚や、それらが空気や目の前の男に触れられる感触はあるのに、いくら意識を集中させても私の体は私の思うようには動かなかった。
手足はまるで棒のようにピーンと伸びたまま、指先もピクリともしない。


(なぜ動かないの・・・?)


目の前の男は腕や手を動かして私に触れていた。
時折口から声を発し、瞬きし、近づけば息遣いも確認できる。
私の体は男と同じように頭や四肢が在り、男のそれと大差はないように思うのに、なぜ私の体は動かないのか。
私は気付いた。


(きっと私、この人と同じではないのね・・・)


そもそも。
私には声の出し方も、体の動かし方がわからないのだ。
似た造りの体を持つ目の前の男ができるから、それだけの理由でできるような気がしていただけだった。
漠然と、動く体のイメージはある。
でも実際に動かしたいと思っても、そう思うだけ。イメージするだけ。
それはたぶん、私の意思でどうこうなるものではないから。
きっともともと動かないから、動かし方なんて知るわけがない。
そう考えると、動かなくて当たり前という気もしてくる。


(そういうもの、なのかな)


きっと私はこの人とは違う。
動かないものなんだ。
私は少し悲しくなった。
私はこの人を呼ぶことができないし、手を伸ばすこともできない。
私からは触れられない。

そんなことを思っているとこちらを見ながら何かを考えていた男がふと、私の体に触れた。
おもむろに腰のあたりを掴み、そのまま抱えられる。


(えっ、えっ・・・!?)


ふわりと体が宙に浮き、私は困惑した。
さっきまでとは違う触れ合い方。
男の手で上体を起こされ、ひんやりとした椅子に下ろされる。
まっすぐだった足も膝が椅子に沿うように曲がり、床に足の裏がついた。
太ももの付け根や膝に、自分の関節が確かに存在しているとわかる。


(あれ・・・
動く・・・!?)


自分の思うところとは違うが、自分がただの塊ではないということは理解できた。
自分の意思では動かなかった体が、関節が、男の手によって簡単に動かされてしまったのだ。
壊れものを扱うように優しく丁寧に、ゆっくりと男の手の力が私の体に伝わる。
骨格の動きに合わせて皮膚が引っ張られ、肘が上がる。
男が何か特別なことをしているという様子はない。
ただ普通に私の腕をつかみ、片手で一部を固定しながら可動部から先を動かしているだけだ。


(この人なら動かせるんだ・・・)


自分の意思では動かせないが、動かしてもらうことはできる。


(私って、なんなんだろう)


男の思うまま動かされる自分の体を見ながら、私はふと思った。

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