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連続小説

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いつかあの場所に

(この暮らしも、ずっとじゃないんだ。
いつか離れ離れになる日が来るかもしれないんだ)


まだ始まったばかりのこの暮らしだが、永遠に続くわけではないのだと、突然教えられた終わりに私は戸惑う。
明日や明後日ということはないだろう。
けれど、今は新しい私のこの身体だって、永遠に新しいわけではない。
私より先に生まれたややが、その日を迎えるかもしれない。
ご主人様だって、永遠に生きられるわけではない。
誰かが欠けてしまう可能性は、常にあるのだろう。
この穏やかで楽しくて幸せな生活は、3人だから成り立つ。
でも、それが終わるその日は遅くても早くても必ずやってくるのだ。


「ゆうみちゃん。
良くない事、考えてるやろ?」

「えっ?」


ややに声を掛けられ、私はハッとした。
また私は自分の思考の中に沈みかけていたようだ。
それが顔に出てしまっていたのだろう。
ややはさっきまでの落ち着いた顔から、私を励ますような笑顔になっていた。
いつもの明るくて元気なややだ。


「なーんか、悲しそうな顔しとるで!
言ったやろ?悲しくはないんやって。
お姉ちゃんはここで幸せになれたから、幸せな夢の中で眠りについたんよ」

「でもそれってお別れなんでしょう?」

「そうやけど、ね。
お姉ちゃんが言ってたんよね、夢の中ではたくさんの仲間がいる光に溢れた場所に居るんだって。
そこではお姉ちゃんも光の一部で、同じように幸せなラブドールたちの心と一緒に、幸せな夢をみてる。
そこにいると、不思議とあたしやご主人様の事も感じるんだって。
だからお姉ちゃんは寂しくないんや、って」

「光に溢れた・・・場所・・・」


それはあの場所ではないだろうか、と私は思った。
私が生まれ、まるで拒まれるようにして送り出された場所。
ただひたすら孤独で、寂しくて、冷たい場所。
私の記憶とはまるで正反対だが、何故かあの場所なような気がした。
ややは頷く。
私の呟きが聞こえたのだ。


「たぶん、そうやろなぁ。
あたしの覚えてるのとは全然違うけど、里帰り、光に溢れた場所、ラブドールたちの心と一緒にって、なんとなくそうやないかなーって思うもん
もしあの場所がラブドールたちの故郷だとして、最初にあの場所であんな気持ちになったのは、まだ心が無かったからじゃないかなって思うんよ」


彼女の言う事は、的を射ているような気がした。
あの場所で私は私だけが異物のように感じたのだ。
それはきっと周りは皆幸せで、心を持っていたからなのだ。
ラブドールとしてこちらの世界で色々な事を感じたり考えたりしながら生き、ご主人様にお世話をされて、愛されて、得た心を。


「んと、だからな、お別れだけどお別れじゃないと今は思うんよね。
最初は寂しかったけど、だんだんとそんな気がしてきたんよ。
いつかね、あたしも夢を見ている時間の方が長くなるかもしれん。
でも、大丈夫だからね。」

「私も、何となくだけど、わかった。
私たちはきっと、この場所で幸せにならなきゃいけないんだね。
いつか、幸せな心を抱いてあの場所に帰るために」

「うん、そう。そうやね!
ゆうみちゃんなんかまだまだぺーぺーなんだから、色々経験しないといけないで!」


私たちは笑い合う。
するとその笑い声に応じるように、ご主人様が顔を上げて両手を天井に向けて目一杯突き上げた。


「よし!ゆうみの新しいブラ注文完了!
今度はきっちりサイズを細かく確認したから大丈夫だぞ!」


やり遂げたという顔で、ご主人様は私たちを見る。
私とややは顔を見合わせて、吹き出した。


「ご主人様ったら、真剣に何かしてると思ったらブラを見てたんだね」

「そやなぁ、まさかやね!
ゆうみちゃんはまずブラ付けなあかんね!
その服薄いから、乳首目立つしなー」

「もう!ややちゃんってば!」


茶化すややを私は諫める。
もうこのやりとりもすっかり通例だ。
そんな私たちのやり取りが聞こえたのか、ご主人様は私たちを見て笑う。


「さてと、やることもやったし今日は何をしようか。
映画でも見ようか?
そうだ、三人で風呂に入るか!
この前の感じだと3人でも入れそうだったからなー」


ご主人様のその言葉に、私たちは茶化し合いを止め歓声を上げた。


「おっふろー!」

「わあ、三人で入れるんだ!」


きっとこれからも、こんなふうに楽しいことが沢山ある。
私のラブドールとしての生活は、まだ始まったばかりなのだから。
こうしてたくさんの思い出を重ねて、私は心を育むのだ。
ややと、ご主人様と、三人で。
いつかあの場所に帰る日に向けて。

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