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違和感

元々たっぷりとゆとりのある膨らんだ袖のデザインで大きめに見える。
ご主人様が袖口から手を離すと大きく広がってしまい、まるでトランペットのような形になってしまうのだ。
ややの着物も袖が長いが、それとは根本的な部分が違うように思う。
彼女の着物は始めからそういうふうに着る様にできているのだ。
この洋服はあれとは違い、何かが足りない様な気がする。
ご主人様もそれに気付いているようで、反対側の腕を袖に通して正面のボタンを再び苦労しながら時間をかけて留めた後一旦離れて首を傾げた。


「うーん、なんだろう。
なんか違うぞ・・・」


ご主人様が違和感を口にする。
もしかして、私の腕が細すぎるのだろうか。
でも、この袖に合うような太い腕なんてご主人様のような男性ならわかるが女性は今までテレビでも見たことない。
だから、実際に大きいのかもしれない。
ご主人様は私の腕を掴んで布越しに撫でた。


「ああ、そうか」


手の方に近付いた時だった。
ご主人様が重なった布の中に何かを見つける。
明らかに布とは違う硬質な違和感、押さえられて始めて肌に触れたのだ。


「なるほど、これを留めればいいんだな。
なんで前側は留まってたのに袖は開いてるのかねぇ」


袖口を探り、違和感の正体を摘む。
そこにあったのは飾りも兼ねているのか細かな英字の模様が入った金色の綺麗なボタンだった。
正面のボタンよりも大きめで、さっきはあんなに外すのを苦労していたご主人様がすんなりとこちらのボタンは留めてしまう。
もしかしたらボタンというのは外すより留める方が簡単なのかもしれない。
まあ、ただ単に大きさの問題なのだろうが。
ボタンが留まった袖はぴったりと手首を包んだ。
腕を下ろしていると私の方からは広がった布地で完全に手首が隠れてしまう。
さっきご主人様は袖のボタンが開いていたのはきっとその方が着やすいからだと思った。
私はご主人様に留めてもらえるからいいが、きっと自分でしなければいけないとなると外すのも留めるのも大変だろう。
ご主人様が苦労していた正面の小さなボタンよりこっちの方が大変なのではないだろうか。


「おおー、その袖、なんか貴族みたいでええなぁ」

「貴族?」


ややに言われて私の脳裏には西洋の中世を描いた絵画のイメージが浮かぶ。
ややの言わんとしていることはわからなくもない。
だが、華美なそれとはかけ離れているように思った。
この服は確かに袖は膨らんでいるし胸元にフリルはあるが、不思議とシンプルな印象なのだ。


「それにしてもなんやろね。
ゆうみちゃんのそれといいあたしの着物といい、ご主人様は袖に何かこだわりがあるんやろか?」


ふと、ややが神妙な顔をした。

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