story

真新しい身体

全身隈なく泡が行き渡った頃、ご主人様は手を止めた。
そして手桶を使って浴槽から湯を取り、それでたった今塗り終えたばかりの泡を流す。
時には手のひらを使い私の肢体を撫でる様に、何度も何度も丁寧に、たっぷりの湯を惜しみなく使って完全に身体から泡を取り払った。
そこにシャワーがあるのになぜわざわざ浴槽のお湯を使うのか気にはなったが、触れられながら流されるのは心地よくそんなことなどすぐに気にならなくなった。
きっと手で流す方が気持ちがいいからなのだろう。
手桶を置き、ご主人様はいつの間にか持っていたタオルで私の顔をさっと拭いた。
どうやら後ろに用意しておいたようだ。


「よし、綺麗になったな。
っていっても、そんなに汚れてたわけじゃないけど」


ご主人様は満足げに、今泡を流したばかりの洗い立ての私の腕を、感触を確かめる様に触る。
濡れた表面はいつもとは違い、滑らない。
洗い立ての食器のように、けれどそこまでじゃない程度に、私の肌は磨かれきゅっと音を立てそうな輝きを帯びていた。
別の物のような質感だ。
まるでそう、表面を保護していた薄い皮を一枚剥いて新しい部分が顔を出してしまったような、そんな感じ。
真新しい身体になったようだ。
そんな私をご主人様は優しく抱き上げる。
乾いている時とは違う肌の質、水滴がご主人様の身体との隙間を埋め密着し、ぴったりと触れ合っている感触はまるで私の肌がご主人様を離さんと吸い付いているようだ。


(このままご主人様とくっついてしまいそう)


支えられた背中や太ももが、まるで接着剤でくっつけられてしまったようにもうご主人様の腕や胸と離れない気がした。
そのくらいぴたりと密着していた。
もしかしたら浴槽の水には何か特別な効果があるのかもしれないと私は思った。
だからわざわざ浴槽から手桶で湯を掬ったのかもしれない。
だとしたら、こんなふうにくっつきたいと思ったのはご主人様と言うことだ。


(ご主人様もくっつくの好きなのかな)


ご主人様がそう望んでくれたのなら、嬉しい。
宙に浮いた私の身体はご主人様の手によってゆっくりと温かな湯船の中へと浸かっていく。
不思議とあんなに密着していた肌と肌が湯に触れると簡単に解れた。


(なんだ、やっぱり普通のお湯なのね)


私はご主人様と離れてしまったこととこの浴槽のお湯が特別なものではないと言うことに少しがっかりしてしまう。
現実的ではないとはわかっているのに、心の何処かで特別で素敵な何かをいつも期待してしまうのだ。


(ご主人様と一緒にお風呂に入っているっていうだけで特別なのに、私って欲張りなのね)


私はそんな自分がちょっぴり恥ずかしくて、ご主人様から目を反らした。

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