story

魔法使い

「おはよう、ゆうみ」


ご主人様の声と共に、私は意識を取り戻した。


(あれ、朝!?)


目が覚めた私は何が起こったのかわからなかった。
ほんの数秒前まで夜だった。
ご主人様にタオルケットを掛けてもらって、目を瞑った。
そして瞼の裏の暗闇、そこまでは覚えているのに目を開けた時には朝だったのだ。
ついさっきおやすみと言って部屋の電気を消したご主人様が今はおはようと言っている。
ご主人様は寝癖のままだがいつの間にかしっかり着替えており、その部分の記憶も私にはない。
別の部屋で着替えてきたのだろうか。
だが、そもそもご主人様が部屋に入ってきた覚えがないのだ。


(そういえばタオルケットは・・・)


私は自身に掛かっていたはずのタオルケットを目で探した。
まだやや上を向いている状態のため、視界の大半が天井を閉めているため見当たらない。
天井が見えているということはもう私には触れていないのだろう。


(いつの間に・・・?)


タオルケットを取られた覚えもない。
私はハッとした。


(もしかして、タオルケットの魔法!?)


タオルケットを掛けられている間の意識がほぼないのだ。
もしかしたらあのタオルケットに何らかの仕掛けがあるのかもしれない、と思った。


(なんて、ね)


さすがに魔法はあり得ないだろう。そのくらいはわかる。
でも、魔法だったらいいなとも思う。
ご主人様が魔法使いだったら、きっと素敵だろうと思うから。
そんなことを思いながら、私は視界から消えたご主人様を目で探した。
視線の端に注意を向けるとちらりちらりとご主人様が見える。
ごそごそと音を立てながら何かをしているようだが、ここからでは全容を確認することはできない。
わずかにご主人様がその手に持っているものがあのタオルケットであるということだけがふわりと香るあの優しい匂いでわかった。
どうやらタオルケットを畳んでいるようだ。


(タオルケットのことは後でややちゃんに話してみよう)


もしかしたらややも同じ体験をしているかもしれない。
もししていなかったとしても、面白い話として話題になるだろう。
昨日はややの話を聞く一方だったが、自分から話す内容ができて私はなんだか嬉しかった。
ややの話を聞くことが嫌というわけではないが、ややの話はとても楽しそうで、羨ましかったのだ。
程無くしてご主人様は畳み終えたタオルケットをソファの横に置き、私を抱き上げた。


「おまたせ。そろそろ行こうか。
あんまり待たせるとややが退屈しているだろうからね」


朝の日の光を受けたご主人様が私に微笑みかける。
私もご主人様に微笑み返す。
私を抱えたご主人様がリビングのドアを開けると、元気いっぱいなややが「おはよう!」と言った。

前の記事へ          次の記事へ

PAGE TOP