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連続小説

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真面目もウケ狙い

どう考えても、私が頑張る要素はない。
よく考えてみると、そもそも今に限らず私が頑張る事なんてほとんどないのだ。
私はラブドールだから仕事も家事もできない。
身の回りのことはご主人様がしてくれるし、毎日ただご主人様の事や他愛もない事を考えて過ごすだけだ。
唯一頑張る事があるとすればご主人様に愛される時くらいだが、今日は私の番ではない。


「頑張るのは寧ろややちゃんなんじゃ・・・?」

「何を頑張らせるつもりなんやろ?
いややわぁ、ゆうみちゃんはえっちやなぁ」

「えぇ!?ちが、そんなつもりじゃ!」


完全に違うとは言い切れないが、別段いやらしい事を考えていたわけでもない。
だがこうしてにやにやと茶化されると、つい私は慌ててしまう。
なんだかすごく恥ずかしい事を考えていたと思われたみたいで、恥ずかしくなってしまうのだ。
私がこうして慌てるのをややはまた楽しんでいるのだろう。
わかっているのに反応してしまうのが悔しかった。
ややは慌てる私を見て楽しそうに笑い、それから突然ころりと真面目な表情を変えた。
重しい空気の中、自分の席に近付いたご主人様が床に置かれた荷物を持ちあげてテーブルに置く。
それと同時に、ややが低めの声で「今にわかるで。居間だけにな?」と言った。


「え・・・っと・・・」


テーブルの上に出てきた荷物に一瞬気を取られた私だったが、これには流石に視線を上げた。
おやじギャグだ。
彼女がどういうつもりで言ったのか、判断に困ってしまい言葉が出ない。
ここは笑うべきなのだろうか。
ウケ狙いで言ったのなら笑うべきなのだろうし、もしかしたらたまたまおやじギャグになってしまっただけかもしれないし、というか私の聞き間違えかもしれない。
もし聞き間違えだったら笑うのは悪い。
でも、もしウケ狙いだったら聞き返すのは無粋だし、笑った方がいいかもしれない。
彼女なら真面目もウケ狙いもどちらの可能性も十分にあり得るから困ってしまうのだ。
厄介なことに、表情も何とも言えない。
ウケを狙ったのなら今の面白かったでしょ?という感じで様子を窺う感じだったりやってやったという感じの表情になるだろう。
普段ややがこういうことを言う時は大体このどちらかだ。
今の表情はというと、目は大真面目、でも口元は少しにやついている。
けれどそれは笑わせようとしている感じではなくて、例えるならそう、言った後に気付いて面白くなってしまった感じだ。
しかし、面白い事を言ってしまったから言いたいのだけれど、怖い空気を作った手前それを崩すわけにもいかず、笑うのをぐっと堪えているようにも見える。
どう返答するのが正解ということもないのだが、こうも状況が読めないと何を言っていいか本当に困ってしまう。

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