story

な、何!?

例えば。
私が目を閉じているのをいいことに、それがいつの間にかすごく近くにいるかもしれない。
今は音は聞こえないけれど、それが逆に不気味なのだ。
音が聞こえなくなったからと油断させておいて、次に目を開けた時、それが私の顔を覗きこんでいるかもしれない。


(だ、大丈夫、大丈夫よ。
足音もなかったし、息遣いとかは感じないし)


出来れば動物であって欲しい。
動物なら、もしかしたら齧られてしまうかもしれないけれど、害があってもその程度だろう。
もしかしたらふわふわで意外と可愛い子かもしれないし、何より動物なら間違いなく現実に存在している生き物だから、怖くはない。
対して、今考えてしまっているそれは定義が曖昧というか、正直自分でもよくわからないのだ。
たぶん、お化けとか幽霊とか妖怪とか、それから怪物、モンスターと言ったカテゴリのものなのだろう。
もしかしたらそのうちのどれかかもしれないし、近いものかもしれない。
名称を知っているくらいで具体的にそれらがどういうものかは知らないのだ。
ただ、とても不気味で怖いものだとは思う。
もしいたとしても私に何かしてくるかはわからない。
でも、音もたてずに暗闇から突然出てくるだけでも十分怖いと思う。
それが例えばグロテスクな見た目だったり、未知の見た目だったりしたら余計に怖い。


(もう!
あんまり考えちゃだめだってば!)


考えれば考えるほどしっかりと想像してしまうから、あまり考えたくはないのだ。
それなのに頭が勝手に働いてしまう。


(何か別の事を考えなくちゃ。
そうだ、ご主人様のこととか。
お風呂楽しかったじゃない、湯船ってどんなだったかな)


私は自分で自分に問いながら、あの時の事を思い出そうとした。
もやもやとした湯気、熱気、シャンプーの匂い。
実際の経験を辿りながら、お風呂場に居る自分を想像する。
何故か想像の中では私が先にお風呂場に居て、ご主人様の肌色が曇りガラス越しに見えていた。


(うん、うん。
これならいい感じ)


空想の世界は自分で思っていたよりも鮮明で出来が良かった。
目を閉じているからかもしれないけれど、まるでそこに居るように細かなところまで思い出せる。
想像だから思いのままだ。
私は頭の中の曇りガラスのドアを少しずつ開ける。
ご主人様の太ももの膨らみが覗いたところで、突然部屋に響いた音で現実に引き戻された。


(な、何!?)


さっきまで聞こえていた音とは違う、もっとはっきりとした音だった。
唸りに近い、振動を伴ったような嫌な音だ。
それはさっきよりも長く、まるでその音が引き寄せるように水が流れるというか小さな流れが狭い所を通る様な音もする。
まるで不気味の二重奏だ。
音は今度は台所の方から聞こえるようだった。
それまではずっと遠くの方に音の主が居たのに、今は確実に音を発している何かが台所に居るように思えた。

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