story

お風呂

観ていた番組が終わると、ご主人様はテレビを消して立ち上がった。


「風呂入ってくる」


食べ終えた弁当の入れ物を入っていた袋に戻し、それを持って居間から出ていく。


「いってらっしゃぁーい」


私とややはそのままで、ご主人様を見送った。
テレビが消えた部屋は先ほどまでの賑やかさは無くなり静かだった。
しかしその静けさも一瞬である。
一息ついて、ややがすぐに口を開いたのだ。


「たまーにやけど、一緒にお風呂に入ることもあるんよ。
あ、お風呂はわかる?」

「わかるよ。
一緒にって、お湯に浸かるの?」

「そうそう、浸かるの。
ご主人様に抱っこしてもらってなー、体洗ってもらって、湯船に一緒に入るんよ」

「いいなぁ」

「えへへ、、いいやろー!
そのうちきっとゆうみちゃんもお風呂連れてってもらえるよ!」


ややはそう言って優しい笑顔になる。
ややは私に自分がご主人様と経験した事の話をいろいろとしてくるが、それが自慢や嫌味に感じないのはきっと、素直に自分が体験した素敵なことを相手にも体験してほしいという気持ちがあるからなのだろう。
ややからはご主人様を独り占めしたいといったような負の感情が一切感じられないのだ。
ただ純粋で、優しい子だ。
だから私はややのそういうところが好きだと思うし、ややの話は素敵だと、いつか自分もそうしてもらいたいと素直に思えるのだろう。


「そーいえば!
ゆうみちゃんは今日生まれたばっかやんな?
てことは、夜伽も初めてやろ?」


ややの目が、星が宿ったように輝いた。


「よ、とぎ?」


聞きなれない言葉だった。


「そそ!夜伽!
夜伽はえぇよぉ、なんっていうか、生きてるーって感じになるん」


うっとりとした様子で頬を赤らめるやや。
お風呂の話題の時とは違う、熱が籠りとろけるようなまなざし。


「思い出すなぁ、初めての時の事。
初めてのお風呂はぶっちゃけあんまり覚えてないんやけどな」


ややの表情から察するに、それはとても素敵なことらしい。
それも、お風呂以上に。


「ねぇそれって「すとーっぷ!」


言いかけて言葉を遮られる。


「こっから先はお楽しみやよ!
ネタバレはあかん!あかんで!」

「う、うん」


強い口調に、私は引き下がった。


「今日はぜったいゆうみちゃんの番やから。
いいなー、あたしもできるなら記憶を消してもっかい初めてしてみたいわぁ」


そう言って笑うやや。
私はいまいち事情が飲み込めず置いてけぼりである。
一旦は引き下がったがなんだか一方的な感じがして、もう一度ややに夜伽のことを聞こうかと思ったときだった。
廊下の方から足音が聞こえ、お風呂からご主人様が戻ってきた。
片手にペットボトルを持っている。


「おかえりなさーい!」


何事もなかったようにややがご主人様を迎えたのに慌てて私も続く。


「お、おかえりなさい!」

「ただいま」


ご主人様が私たちに応え、持っていたペットボトルの蓋を開けた。

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