story

おはなし相手

本当に諦めてしまったようで、彼女の方からもう声はしなかった。
心なしか先ほどまであんなに楽しそうだった顔もいつの間にか悲しげに見える。


(ごめんなさい・・・)


申し訳なさと、伝えられない悔しさと、もう話しかけてもらえないのだろうという哀しさで私はひどく辛い気持ちに押し潰されそうだった。

できることなら私だって、彼女と話したかった。
ご主人様が仲良くしろと言ったからというのもあるが、ご主人様にお世話になっていた先ほどの様子から、純粋に、自分と同じような状態にあると彼女とは理解し合い通じるところがある気がしたのだ。

しかしどうやら私と彼女とでは全く同じというわけではないらしい。
だって、彼女は私とは違い、相手に自分の意思を伝えることができるのだから。


(ごめんなさい、私は貴女とは違うみたい・・・)

聞こえているのに答えられないというのは、罪悪感がある。


「あ、そうか!
ごめんごめん、返事したくてもできんよねぇ」


唐突に再び彼女の声が頭の中に響いた。


「なんかもう当たり前すぎてうっかりすっかり忘れとったんよー」


ごめんと言う割には申し訳なさが抜けた調子で彼女は笑う。
返事ができないということをわかってもらえたことに私は一先ずほっとした。


「えーっとな、声?の出しかたなんやけどね、うちらは人とは違うんよ。
口から出すんじゃなくて、なんていうんかな・・・相手に向かって頭の中でひゅーん!みたいな!
とんでけー、って感じで言ってみ!
あたしもやり方教えてもらったらすぐできるようになったし、ゆうみちゃんもちゃんとできるよ!」


漠然とした説明に私は呆気にとられた。
彼女の口振りからそれがふざけているわけではないとはわかるのだが、いまいちイメージが湧かない。
思っていることを飛ばす、と言うことなのだろうか。

先ほどご主人様相手に試した際のこともあり、できないのではないかという不安もある。
でも、先ほどとは何か違うと思う。

なんとなくだが、できるような気がするのだ。
彼女の声のおかげだろうか。


(よし、やってみよう)


私はとりあえず、彼女の言うとおりにやってみることにした。


(えーっと、やや、さん?はじめまして)


敬称をちゃんにするかさんにするかで少し迷ったが、初対面の相手ということと私にとっては姉になるということからさん付けで、彼女に言われた通り相手に飛ばすイメージで呼びかける。

不思議と呼びかけを追いかけるように自分の声が聞こえたような、そんな感じがした。


「聞こえた聞こえた!
やったね!」


成功したらしく、ややが歓声を上げた。
一回で成功できたことに嬉しさもあるが、それよりも安心の方が大きい。
もしできなかったらという不安もあったのだ。


(よかった、これでお話しできる)


私は胸を撫で下ろした。

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