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連続小説

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音の正体

「もう一つの音?
どんな音やろ。変な音、他にあったかなぁ?」

「なんだか唸り声・・・というか、何処かに繋がっている感じの・・・というか、機械的なんだけど生き物みたいでもあるし、なんだか怖い感じの音だよ」

「ううん、わからんなぁ。
それって、お昼は聞こえないんよね?
時々上の階の人が掃除機をかける音が聞こえてくるけど、夜はさすがにないもんなぁ」

「お昼に聞いたことはないと思う、たぶん・・・
それに、音は上の方からじゃなくて向こう。お台所の方から聞こえたの」

「台所?」


台所と聞いて、ややの口元がにやりと歪んだ。
きっと音の正体がわかったのだ。


「それって、ぶううううううううんみたいな音やろ。
意外と大きい音だったり、突然止まったり、かと思えば小さくずっと鳴ったりする」

「ええと、もっと低い感じだったよ?
地の底の方から・・・実際はお台所なんだけど、出で来ようとしているみたいな」

「表現がおどろおどろしいで・・・!?
あと、あたしの声の限界や!」


ややはちょっと待ってと私が話すのを止め、何度か音の再現をやり直した。
だが、最初のが一番低かった。
そもそも彼女は高い声なのだから、低い声を出すのは無理がある。
どんなに恐ろしい声を出そうとしても、子猫の鳴き声のような幼さと愛らしさが付いて回ってしまうのだ。
どう?と私に聞くが、大して変わりがないのでそのまま「あんまり変わらない」と答えると、少ししゅんとしてしまった。


「まあ、ええわ。
その音の正体、冷蔵庫やで」


気を落としたままのテンションで、ややはさっくりと言った。
いつもなら私を驚かせようと、答えを出すタイミングを引っ張ったり誇張して話したりするのだが、すっかり冷めてしまったのと無理に低い声を出そうとして喉、或いはお喋りをする器官に負担がかかってしまったようだ。


「えー、冷蔵庫?
そんなわけないよ!
冷蔵庫が唸るなんて、聞いたことない!」


私は台所を見ながら言った。
丁度台所に入ってすぐ、私からも見える位置にそれはある。
ご主人様の冷蔵庫はあまり大きくない。
私が立った時と同じくらいの背丈で上に電子レンジが乗せられており、たまにご主人様が飲み物をしまっているのを見るくらいであまり開閉されることはなく、ほとんど物が入っていないのを知っている。
今まで注視したことはないが、あれが本当に昨日の音を出すのだろうか。
どっしりとしたその佇まいは、音を発するようには到底見えないのだ。
私は耳を澄ましてみるが、今はただ廊下からのご主人様の鼻歌と周りの家電から発されているであろう微かな電子音が聞こえるだけで、昨日のような唸り声は聞こえなかった。


「普段は静かなんやけど、時々大きめの音で鳴るんよね。
古いから、中の温度が下がってきたら頑張って動かないと冷えないんやってご主人様が言ってたなぁ。
ゆうみちゃんが来てからも鳴ってたと思うけど、もうすっかり生活の一部やからそんなに意識したことないかもしれんね。
お昼に一人だった時はまた鳴ってるなーって思うことが多かったんやけど、ゆうみちゃんが来てからは起きてる時はほとんどお喋りしてるしね!」

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