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連続小説

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なんだか泣いているみたいだな

それからご主人様は手早くボディーソープを泡立てて身体を洗った。
私の時とは違い、硬そうなタオルのようなもので身体を擦る。
広げて両手で端を持つと一人でも背中がうまく洗えるようだ。


(私が自分で動けたらご主人様の背中を洗ってあげられるのに)


さっきしてもらったことを、私もご主人様にしてあげたい。
あの広くて逞しい背中を私の手で隅々まで洗うのだ。
想像するだけで楽しくなってしまう。
私はご主人様を見ながら、自分がご主人様の身体を洗ってあげる場面を想像した。
ありがたいことにご主人様は私を浴槽に入れる際、首だけをそちらに向けてくれたのだ。
だからご主人様が自身を洗っている間、私はご主人様を見ていることができた。
時々ちらりとご主人様がこちらを見る。
目が合うとなんだか私は嬉しくなった。


(ご主人様もなんだか嬉しそう)


心成しかこちらを見るご主人様の口元は綻んで見える。
私と目が合うのを喜んでくれているようだ。
普段なら恥ずかしくなったり気を使ってしまう私だが、今はご主人様と二人、別世界にいるようでなぜだか困ったりはしない。
視界に掛かった湯気の靄と、お湯の温かさやご主人様に持ち上げられた時とは違う浮遊感が私を夢見心地にさせているからだろう。
だんだんと身体の感覚が軽くなり、温かさだけが私を包む。
視界にはご主人様だけ、ぼんやりとそちらを見ていると再び水滴が飛んだ。
ご主人様がシャワーで身体の泡を流し始めたのだ。


(あわわ、飛んでる!飛んでる!)


すっかり油断していた私は水の襲来に慌てた。
小雨程度の粒が意識してみると確かに顔に当たる。
ビニール製のシャワーキャップでしっかり頭を保護したのはこのためかもしれない。
そういえば、タオルもしっかり用意されていた。
こんなに私が濡れているのにちらりと目をやるばかりなのは想定内だからなのだろう。
シャンプーの時のように泡が飛んでくることはないのだが、ある程度の量になると水が頬を伝い少し気持ち悪かった。


(涙を流すってこんな感じなのかな)


目の窪みから頬に水が流れた時、私はそんなことを思った。
ラブドールは涙を流すことはないが、そういうものがあるということは知っている。


「なんだか泣いているみたいだな」


シャワーを止め私を見たご主人様はそう言った。
シャンプーを流した時に使ったものと同じタオルを一旦絞り、まるで涙を拭うように私の目元にそれを当てる。
本当に涙を流しているわけではないけれど、跪いて紳士的に私の頬を拭くご主人様の姿はドラマのワンシーンのようで、私は思わずときめいた。
お互い裸だということと、ご主人様が手にしているのがハンカチではなくタオルと言うのが少し残念だが。

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