story

洗剤の匂い

「服はどうするかな、パンツ履かせたんだしやっぱり着せたいところだけどややの服じゃ胸が入らないだろうしなぁ」


ご主人様はパンツを取り出した段を閉め、また最初に開けた真ん中を引き出して中を物色していた。
いくつか目についたものを広げて私に合わせてみるが、どれも細身で当てた時点で入りきらないことは明白なようだ。
合わなかった服はきちんと畳んでチェストへと戻されていく。


(ご主人様って本当にきちんとした人なんだな)


手馴れた様子で手早く服を畳む様子や皺にならないようきちんと丁寧にチェストへ戻す様子に、私は感服する。
それと同時に、隣に立ってその行為を手伝いたいと思うのだった。
もう目ぼしいものがなくなったのか、ご主人様はチェストを閉めた。
そして立ち上がると別の収納チェストの方を向く。


「俺の服なら着れるだろうけど変なものを着せて色移りしても困るから今日もこれで我慢してもらうか」


ご主人様の言葉から、視線を向けられたそのチェストにはご主人様の服が入っているのだろうということが分かったが、それが開かれることはなかった。
在り合わせで服を着せることは諦めたらしい。
ご主人様は屈んで再び布を私に巻き付けるとそのまま抱きかかえ、部屋に置かれている布張りのソファに私を座らせた。


「今日はゆうみはここで寝るんだよ」


頭の位置や腰の支えを調整しながらご主人様が言う。
徐々に視線が天井へ向かい、私の視界にはご主人様が映らなくなった。
しかし手の感触だけが相変わらずで、不安はない。
ソファは見た目よりもずっと柔らかく、私の身体を受け止める。
沈み込むような、宙に浮くような、不思議な感覚だった。


(ご主人様に抱えられている時に似ているかも・・・)


身体から力が抜けてどんどん軽くなる。
ご主人様の大きな手が私の視界に影を落とし、頭部に触れるのがわかった。
愛おしむ様に髪を撫でつけ、ソファの横に畳んで置かれたタオルケットを広げてそれで私を包む。
ご主人様の服と同じ洗剤の匂いがした。
タオルケット越しの丸いシーリングライトの眩しい明かりがだんだんとぼやけて暗闇が広がっていく。


「おやすみ、ゆうみ」


少し離れた場所から聞こえたご主人様の声が頭の中で反復した。
その甘美な残響を聞きながら、私はまどろみの中に溶けていく。
闇と混じるような、まるでブラックコーヒーに注ぎ入れたミルクのような、そこにあるのにそれとして認識できない様な曖昧な意識に浮かんでいるのだ。
それは一瞬で、しかしながら長い時間のようにも思えた。
パチリと音がして、すべてが消える。
次に目が開き、私を迎えたのはシーリングライトの白光ではなく窓から差し込む朝の爽やかな日の光と寝癖のまま眠そうな面持ちで私の頬を撫でるご主人様だった。

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