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連続小説

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呟くように言った

ややはふむと頷くとしばらく黙って神妙な顔をした。
これはややが考えている時の顔だ。
始めは変化なんてちっともわからなかったが、最近はややにも表情があることがわかるようになった。
これも何故かはわからないが、もしかしたらラブドール同士だからなのかもしれない。
ややがやたらと察しが良いのも今では頷ける。
彼女には私の表情が見えていたのだ。
やや曰く、ラブドールにはラブドールの世界があるとのことだ。
きっと彼女とお話ができるのと同じ、不思議な力が働いているのだろうと私は考えている。


「そういえば、あたしも最初にお尻をした時は気持ちよくなかったかもしれんね」


難しい顔のまま、ややは呟くように言った。
私はそれを聞き逃さない。


「そうなの?
なんだか自信なさげだね」

「あたし、昔の事ってあんまり覚えてないんよ。
最近の事ばっかり!
楽しい思い出とかはあるんやけど・・・でも結構忘れちゃうんよね」


ころりと明るい表情に変わり、笑い出す。
さっぱりとした性格だとは思っていたが、あまりにもあっけからんとしていて私はなんだか心配になった。


「あ、別に古いからじゃないで!
おばあちゃん扱いはやめて、まだまだ現役ばりばりやよ!」


私が心配していることに気付いたのか、ややはぷんぷんと言いながら頬を膨らませ、わざとらしく怒ったふりをして茶化してみせた。


「それって、大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫!
きっとそういう性格なんよ。
嫌なこととか辛い事とか覚えててもしゃーないやろ?
まぁ、普通の事とかも忘れてしまうんやけどね!あはは!
楽しい事は覚えてるからいいかなーって思ってるんやけど。
・・・あ、てことはつまり初めてお尻でえっちした時は楽しくなかったんかも?」


ややは再び眉を寄せ考えるモードへと移行した。
それにしても、お尻の初体験をそんなに簡単に忘れてしまえるものなのだろうか。
彼女らしいといえば彼女らしいのだが、私には信じられなかった。
昨日のあれはあまりにも衝撃的だったし、私はどちらかと言えば悪いことほど強く思い出に残ってしまいいつまでも考えてしまうタイプだからずっと忘れることなんてできないだろう。
だから楽しい事以外は忘れられるというややが少しだけ羨ましかった。
尤も、彼女の言う事が本当かどうかはわからない。
本当は嫌な事は思い出したくないから忘れているふりをしている可能性だってある。
或いは、さっき彼女が茶化したが、随分昔の事なのかもしれない。
それなら記憶が薄れていてもおかしくはないと思う。
なんだかこの事はどちらにせよ追及してはいけない気がして、私はそれ以上訊ねるのはやめて、難しい顔で時折唸り声を漏らす彼女が考え終えるのを待つことにした。

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