story

茶色いダンボール箱

温かい昼が過ぎ、燃えるような夕焼けが地平の向こうに沈んだ。
まるでコマ送りのように過ぎる私たちのご主人様が不在の時間。
部屋の中が薄暗くなると、私はドアが開く音が聞こえるのを今か今かと待つ。
決して綺麗な音ではないのに、私は滑りの悪いドアノブの回る鈍い金属音がまるで祝福を知らせる鐘の音のように聞こえるのだ。
今日もドアノブが回り、ご主人様が入ってくる。
しかし先に見えたのはご主人様の顔ではなく、ご主人様の胸を覆い隠すくらいの大きさの、黒い英字のロゴが入った茶色いダンボール箱だった。


「わー!お買い物や!」


箱を見るや否や、おかえりなさいを言う前にややが歓声を上げる。
いつもは二人で同時におかえりなさいを言うのだが、不意を突かれて私は出かかったおかえりなさいを飲み込んだ。
ややの視線はすっかりダンボール箱に釘付けだ。


「ご主人様、今度は何を買ったんやろー?」


うきうきした様子でご主人様がダンボールを私たちが居るテーブルの手前に降ろすのを見つめるやや。
ダンボールは大きさはあるが中はそれほど重くないようで、ご主人様は軽々とそのダンボールを床に放り、上に乗せた中身の入った白いビニール袋を取り上げた。
そのビニール袋の中身は知っている。
ご主人様は毎日ご飯を買って白いビニール袋に入れて帰ってくるのだ。
今日も例外ではなく、テーブルに取り出されたビニールの中身はいつもの通りお弁当と飲み物だ。
これも買い物と言えなくは無いだろうが、それに対してややがこんなふうに歓声を上げるところは見たことがない。
だからややが指すお買い物というのはきっとご主人様が持っているダンボール箱の方なのだろう。
現に、ご主人様がお弁当を食べ始めてもいつもなら反応を示すはずのおかずに彼女は目もくれなかった。


「何が入ってるのかな?」

「なんやろねー?
何でも出てくるから、ちっとも想像できんね」

「何でも?」

「うんうん、なんでも。
前にご主人様が持ってきた箱はもっと大きくて、妹が入ってた!」

「それって、私?」

「そうやで。
さすがにあれはあたしもびっくりした!」


そう言えば初めてご主人様に出会ったあの日、ご主人様の背後には大きなダンボール箱が置いてあった。
ご主人様はそれを周りに落ちていたゴミと一緒にすぐに片付けてしまったけど、あれには私が入っていたのか。


「私、ダンボール箱から生まれたの!?」


私はハッとした。
あの時はご主人様や新たな世界に夢中でそんなこと思いもしなかったのだ。
ダンボール箱に入っていた記憶もないが、しかしあの時そこにあったことを考えるとややの話は嘘ではないのだろう。


「あはは、そやで。
まー、あたしはゆうみちゃんがダンボール箱から出てくる所は見てないんやけどね」


ややはそう言って笑った。

前の記事へ          次の記事へ

PAGE TOP