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連続小説

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嘘やん!

「私が聞いたの、そんな感じじゃなかった気がする」


私がそう言うと、ややはあからさまに驚いた顔をした。


「えぇ!?嘘やん!
ほら、ズンズンジャカジャカで、男の声でんああーみたいな感じやったやろ?
それで、音はゆうみちゃんの後ろの方から聞こえてたやろ?」

「あ、一つは確かに私の後ろから聞こえてた。
でも小さくて、声・・・は聞こえなかった気がするけど、言われてみたらズンズンしてたかも」


後の音の方が印象が大きくて、実を言うと最初に聞こえてきた音の方はもうあまり覚えていなかった。
けれど、音がする方向やリズムがあったことから、最初の方はきっとややの言う通りなのだろう。


「そやろ?まー、毎日聞こえるわけやないんやけど。
元々壁越しってのもあるし、いっつも音が大きくてうるさいとか夜に歌を歌うなっておうちの人に怒られてるみたいやから、音を小さめにしてるのかもしれんね。
元々ここのおうち、お隣との壁が薄いんよ。
最近はお隣さん忙しいみたいであんまり日中は家に居ないみたいやけどね。
注意してる声の方が音楽より大きいから面白いんやで!
ご主人様もね、声の方がでかいっていつも笑ってしまうんよ」


思い出し笑いを交えながらのややの説明を聞いて、私は納得した。
壁の向こうにも人が暮らしているのなら、きっとそういう事もあるのだろう。
音の主が人であるなら、安心だった。
そもそも、ここがどういう形の家なのかを私は知らなかった。
高い所にあるというのは窓の外の景色でわかるが、その他の状況が解らないのだ。
お隣さんという事はおそらく、この家は複数の家族が一つの建物の入居する集合住宅、そのひとつなのだろう。
ラブドールとして暮らしていると外界の事を知らなくても何も不便はない。
だから気にすることもなかったのだが、今回ばかりはもっと早く知っていれば、最初から怖い思いをしなくて済んだのに。
私がここで暮らし始めてから、隣人の声を聞くことなんて一度もなかったのだ。
夜は寝室に居るし、昼間はややと話しているかテレビが点いている。
或いは、眠っているみたいに時間が過ぎている。
他人の生活を盗み聞きするなんて行儀の良い事ではないけれど、テレビやご主人様以外の人間がどんな事を言うのか、少し聞いてみたくもあった。


「それじゃあ、もう一つの音はなんだったんだろう?」


最初の音の件は解決したとはいえ、問題はまだあった。
その音を思い出すと、まるでこの世の物ではない様で、寒気がする。
こちらの方が私にとっては問題だった。
初めの音は壁の向こう側という事もあり、言われてみれば確かに誰かが居る可能性が初めからあったのだ。
けれどこちらは、いつもいるリビングと続き部屋になっている台所から聞こえてきた。
誰もいないことが間違いなくわかっている台所からだ。

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