story

わぁ、可愛い!

「すっごく好き!
チョコレートってね、甘くていい匂いがして、匂いを嗅いでいると食べてるみたいに口の中がふわーっと甘くなるんよ」


ややはまるで夢を見るような眼差しでうっとりと宙を見上げた。
きっとチョコレートを思い出しているのだろう。
まるで夢みたいな話に私の心は大きく揺れる。
テレビで見たスイーツ、ご主人様のお弁当、食べ物を食べるってどんな感じなのだろうと何度思ったことだろう。
私たちは食事を取る必要がない。
けれど食べ物の美味しそうな匂いは感じるし、匂いがすれば味が気になるのだ。
私が知っている味はご主人様とのキスの味だけだ。
それが嫌な訳ではない。
ご主人様とのキスはいつも違う味がして、いつも最後は濃厚で甘く、とても幸せな気分になる。
でも、それとこれとは話が違うのだ。


「それは、すごいね!」

「せやね!
甘いって、すっごい幸せなんよ。
他にも匂いがするだけで甘―い味がするものがあるけど、チョコレートはダントツやね。
ご主人様、今チョコ食べないんかなぁ?」


ややは視線をテーブルの上へと戻した。
目の前にあるあの赤い箱が、まるで魔法の箱のように思えた。
ご主人様はチョコレートの箱をテーブルの上に置いたまま、荷物の整理を続けている。
早く開けてほしいけれどきっと今は無理だろう。
忙しそうだし、ご主人様は夜にお菓子を食べないのだ。


「あっ」


箱の上に別の物が置かれ、私とややは同時に声を上げた。
やっぱり今日はチョコレートを体験するのは無理のようだ。
私は肩を落とし、ややは口を尖らせた。


「今日は食べないみたいだね」

「むむむ、ちょっとだけ食べたらいいやんか。
おあずけなんてご主人様のいじわる!」


ややが悪態をつくと同時にご主人様がぱっと顔を上げた。


「ご主人様!チョコ!
チョコ食べて!」


必死に訴えるやや。
私も祈る様な気持ちでご主人様を見る。
しかし私たちの期待も虚しく、ご主人様はチョコレートの箱には手を触れず、替わりに今開けたばかりの荷物をテーブルの上に広げた。
それを見て、私は思わず息を飲んだ。


「わぁ、可愛い!」


向かいに居るややがはしゃぐ。
ご主人様が取り出したのは柔らかな生成り色で胸元にフリルの付いたブラウスだった。
透明感のある生地に袖が大きくふわりと膨らみ可愛らしさと上品さを併せ持つそれを、私は一目見た瞬間に気に入ってしまった。
続けてご主人様はブラウスに合わせて大きなリボンが付いた濃いブラウンのスカートを重ねて置く。
落ち着いたデザインのブラウスに対し、スカートは可愛らしさの際立つ甘いデザインだ。


「これ、きっとゆうみちゃんの服やね」

「そうかな、そう思う?」

「絶対そうやで!」


自分でも、なんとなくそんな気がしていた。
それを見た時、すぐに自分が着ている所を想像できたのだ。
色味や雰囲気がなんとなく私っぽいし、きっとややの長い黒髪より私の淡い髪色の方が似合う気がするし。

前の記事へ          次の記事へ

PAGE TOP