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連続小説

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やっぱり

結局、私がそれを見ることは無かった。
瞳が開くか開かないかという所で、私の意識は途切れたのだ。
眠ってしまったのか、所謂気絶と言うやつなのか、判断は付かないが私にはその先の記憶がなく、テレビから流れるニュース音声を聞きながら徐々に意識を取り戻した時には部屋の中は光が差し込みすっかり明るくなっていた。
全く覚えはないが、いつの間にか起きてきたご主人様がカーテンを開けたようだ。


「おはよ!
お寝坊さんやね。よく眠れた?」


目が覚めるよりも先にいつもの位置に来ていたややが、私が目覚めたのに気付いて声を掛けてきた。
いつもと違う淡い水色地に、肩に地色と同じくらいの彩度の大きな黄色の蝶柄が入った着物を着ている。
今日初めて見た着物だが、昨日の買い物の中にあっただろうか。
元々あったものかもしれないが、私が生まれてから毎日同じ着物しか見ていないから、なんとなくあれしかないものだと思っていた。
新しい着物ならきっとややのテンションはもっと高い。
だから、おそらく元々持っていた物なのだろう。


「おはよう・・・
うーん、あんまり眠れなかった・・・かな。
というか、気付いたら朝だったかな」


真っ暗闇に眼が慣れてしまったからか、朝日が目に痛い。
私は薄目で周りを見た。
ご主人様の姿がないが、廊下の方から水音が聞こえるからきっと身支度をしているのだろう。
テレビが点けっぱなしだから、まだ仕事へは行っていない。


「ゆうみちゃん、あたしたちが起きてきても全然起きへんのやもん。
ご主人様なんてもうご飯食べ終わっちゃったんよ?
よっぽどお疲れなんやなぁって思ったで。
それで、夜はどうやった?
なんかあったやろ?」


私は起きたばかりでまだぼんやりした頭で昨日のことを思い出す。


「昨日の夜・・・
あっ」


そういえばと私は再び見える限り辺りを見回した。
リビングはいつもと変わらず、何処にも異常はない。
台所の方も、奥の方まではここからでは見えないが、いつもと変わりはないようだ。
それと、夜に聞こえたあの音も今はしていない。


「そうだ、昨日の夜!
真っ暗でよくわかんなかったんだけど、お部屋の中に私以外に何かがいたんだよ!
ややちゃん、もしかして知ってたでしょう」

「うん。
知ってたでー。
頑張ってって言ったやん」


ややはいつものいたずらっ子の笑みを浮かべた。


「もう!やっぱり知ってたんだ!
言ってくれないと!
すっごく怖かったんだよ?
あれって、一体何?」

「あはは、ごめんごめん!
でもゆうみちゃんはお化けとか信じてないかもしれないし、怖いの出るよって言うのもへんやろ?
まぁお化けではないんやけどね。
あれはね、お隣のおにーちゃんが音楽聴いたり、歌を歌ってる声なんよ」


その説明を聞いても、私はなんだか納得ができなかった。
初めに聞こえてきた方はそう言われるとそんな感じもするけれど、後から聞こえてきた方はただただ単調にひとつの音が流れているだけで、音楽とは違うと思う。

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