story

やや

彼女も私と同じように、突然目の前にいる私が妹だなんて言われて戸惑っているのだろうか。

ずっと同じ微笑み、いや、先ほどより楽しそうに見えるその顔からは、彼女の心情はわからなかった。
もしかしたらなんとも思っていないのだろうか。

私が困っていると、私の視線の方向から柔らかい女の子の声がした。


(えっ・・・!?)


私は驚いた。
ご主人様が出て行った今、ここに居るのは私とややと呼ばれた目の前の女の子の二人きりなのだ。
目の前の子も、おそらく私と同じラブドールである。

たった1時間ほどの経験だが、私の経験上、私たちラブドールは声が出せないはずだ。

もしかして、彼女はラブドールではないのだろうか。

しかし、唇が動いた様子もないし、ご主人様の発する声とはまた違う感じがした。
なんというか、先ほどの女の子の声は耳から伝わる音というより頭の中に直接響いてくるような感覚があった。

空耳だろうか。
声がしたと思ったが、内容まで聞き取れたわけではない。
もしかしたら外の音や部屋の中でずっと響いている電子音を錯覚しただけなのだろうか。
私がそう思っていると、


「あれぇ、おかしいなぁ。聞こえないんやろか」


今度は確実に、完璧に、女の子の声だった。
柔らかだがどこか明るさを感じる声に訛りのある口調、今度ははっきりと聞き取れた。


「よし、もう一回呼んでダメだったら諦めよ!
ゆ、う、み、ちゃーん」


その声は私の正面から、確かに私を呼んでいた。
そこに居るのは先ほどから変わらす、ご主人様にややと呼ばれた着物の女の子ただ一人である。


(あの子が呼んでるの・・・?)


私は戸惑った。
彼女の唇は少しも動いていないのに、彼女の声が聞こえるのだから。


(これは、答えた方がいいよね・・・?
でも、どうやって?)


私を呼んでいるのは間違いない。はっきりとゆうみと、私の名前を呼んだのだ。

しかし、私は答えることができなかった。

少し前にあれだけ試してダメだったのだ。
もしかしたら、私と彼女は体の構造が違うのかもしれない。

私は困ってしまった。

話せないということを伝えることもできず、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
せっかく呼びかけてくれているのに、私にはどうすることもできない。


(どうしよう・・・無視してるって思われちゃうかな・・・。
嫌われちゃわないかな・・・)


仲良くするんだぞ、というご主人様の言葉が脳裏に浮かんだ。


「やっぱり、だめなんかな」

(違う、違うの!
話せないだけなの!)


落胆したようだった。
明るかった少女の声の調子が、あからさまに落ちた。
一回で諦めると言っていたから、もう話しかけてくれないかもしれない。
それは困る。

私は必死に訴えた。

訴えると言っても声が出るわけでもなく体が動くわけでもない。
何ができるわけでもないが、心の中で彼女に向って弁明した。

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