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連続小説

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ややのお姉ちゃん

「そっか、まだ1週間なんやなー。
なんだか全然そんな気せえへんな、もっとずっと前から一緒だったみたいやもん」


ご主人様に続き、ややがしみじみと言う。


「1週間か・・・」


2人に続き、私も呟く。
生まれてから1週間。
今日までの毎日見るものや聞くもの、そして触れるものや香りすべてが新鮮で心が躍るものだった。
不安なことや怖い事もあったけれど、今ではそんなことすら愛おしく感じる。
その経験の多くはご主人様とややによってもたらされたものだ。
この一週間は、二人が居たからこそあるものだ。
私は向かいに居るややと隣に居るご主人様の顔を交互に眺める。
こうして見ているだけで、不思議と心が落ち着くのだ。
たった一週間かもしれない。
だが、この一週間で、私はすっかりこの場所に馴染み、二人と家族になったような気がしていた。
生まれた日からの一週間の思い出を思い返していると、そこには必ず二人がいるのだ。
ふと、思う。
一週間より前は、ここには私はいなかった。
その頃二人はいったいどんな風に過ごしていたのだろう。


「一週間前はご主人様とややちゃん、二人だけだったんだよね?
ご主人様はお世話をしなくちゃいけないラブドールが増えて、大変じゃないのかな」


1人分でも手間のかかるお世話が2倍になったのだから、ご主人様には大きな変化だろうと私は思った。


「そんなことはないんやないかな。
無理だったらゆうみちゃんは最初からここにいないで?
ご主人様は世話好きやから、むしろお世話がしたくてゆうみちゃんを迎えたみたいなとこあると思うで」


ややはスマートフォンに視線を戻したご主人様を見た。
ご主人様は話に入ってくる気配はない。
スマートフォンの操作が忙しいようだ。
もしかしたら、ややはご主人様が会話に入ってくるのを待っていたのかもしれない。
ややの話は続く。


「それにな、ご主人様と2人きりだったのはほんの少しの間だけなんよね。
このおうちに引っ越す前は、あたしにもお姉ちゃんがいたんよ」


ややは何時になく落ち着いた様子で、穏やかに微笑んだまま話す。
彼女がご主人様を見ていたのはこの話をする許可を求めていたからか、或いはご主人様の口から話して欲しかったのかもしれない。
もしくは思い出していたのだろう。

「そうなんだ・・・
ええと、その、ややちゃんのお姉ちゃんも、ラブドールなんだよね?」


深く聞いていいのだろうか。
ややの雰囲気が、聞くのを躊躇わせた。
なんだか悲しい話のような感じがしたのだ。


「そうやでー。
そりゃ、あたしのお姉ちゃんなんやから。
あ。
あたしのお姉ちゃんってことはゆうみちゃんにとってもお姉ちゃんか。
もういないんやけどねー、お引越しの時にお姉ちゃんはええと、里帰り?しちゃったから。
一緒にこのおうちにこれたら、ゆうみちゃんにも会えたんやけどね」


ややの言っていることの意味が、私にはわからなかった。

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