story

夢見がちなわたし

もしもややだったら、「魔法のお湯みたいやね!」って言って素直に喜んだりはしゃいだりするのかもしれない。
ちょっと考えただけでそんな想像が容易にできる。


(私もややちゃんみたいだったらよかったのに)


彼女みたいに素直に喜んだり楽しんだりできればもっといろいろと良かったのだろうと思う。
私はどこか冷めているというか、現実的というか、そんなところがあるから。
それなのに夢見がちだから、恥ずかしくなる。


(特別なお湯だなんて、なんでそんなことを思ってしまったんだろう)


一瞬そんなことを考えて舞い上がってしまった自己嫌悪で私はこのままお湯に沈んでしまいたいと思った。
私の身体はご主人様の手によって程よい高さに頭が出る様に足を延ばして座らせられている。
風呂場に入ったときは、なみなみと湯が張っていた湯船だが、さっき身体を流すのに湯を使ったことで今は嵩が減っており、まるでこの高さになる様に計算してお湯を使ったように思える。
頭がお湯に浸からないように、でも体が冷えない様にといった感じだ。
温かさが芯まで伝わり私はその心地よさに先ほどの自己嫌悪を忘れた。
私を湯船に入れたご主人様は、私が身体を洗っているときに座っていた椅子に腰かけて自分の頭を洗い始めている。
手桶に汲んだお湯を一気に被るとボトルからねっとりとした液体を出し、頭に乗せて勢いよく泡立てた。


(あああ、飛んでる、飛んでる)


わしゃわしゃと掻き回す度、泡が跳ねて浴槽に落ちる。
私のことはあんなに丁寧に洗ってくれたのに、自分に対しては少々雑な辺りがなんとも愛おしく思えた。
ご主人様の洗髪はあっという間で、おでこの方から後頭部まで一通り泡立てると手を止めて、私の時は出番のなかった壁に掛けられたシャワーを手に取った。
蛇口を回すとシャワーヘッドから勢いよくお湯が飛ぶ。
ご主人様はためらうことなくそれを頭に当てた。
その飛沫が雨のように湯船に飛び先ほど浮かんだ泡を砕いていく。
なかなかの勢いだ。
もしかしたら、飛沫が飛ぶから私の身体を洗う時にはシャワーを使わなかったのかもしれない。
泡を流したご主人様はこちらを見ると慌ててタオルを手に取った。


「ごめんごめん、かかっちゃったか。
このシャワー、水圧が強いんだよなぁ」


どうやらご主人様のシャワーの飛沫が私の顔にかかってしまっていたらしい。
あまり気にならなかったが、よく考えてみればあれだけ水面に飛沫が飛んでいたのだから、私の顔まで飛んでいてもおかしくはない。
気にならなかったということを思うと付いた水滴の量は大したことはないのだろう。
だがご主人様は手にしたタオルで私の顔を丁寧に拭った。

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