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夢の中まで

まどろみの先、気付けば私は生まれたままの姿で、とても心地がいい場所を歩いていた。
あれほどまでに動かなかった足は羽が生えた様に軽く、甘い桃色の包み込むような柔らかい雲のような地面の上をどこかへ向かって弾むように歩いていたのだ。
頭上には黄昏色の河にぽつりぽつりと輝く星が浮かび、流れている。
私はここが現実ではないことがすぐにわかった。
何故ならここでは私は限りなく自由だったからだ。
手足の自由に加え、ここでは私が望めばなんでもできるのだ。
駆けることも、飛ぶこともできた。
広大に続く雲の大地の上で、私は思うがまま髪を梳かし、駆け、転がることができる。
とても不思議な気分だった。


「ラブドールも夢を見るのね」


私の呟きは煙になって頭上の大河に消える。
それはややと話すときの声とも、ご主人様が発する声とも異なって、まるで残響のように響きながら上へ上へと上がっていくのだった。


「夢ってみんなこんな感じなのかな」


私は煙を吐きながら歩みを続けた。
煙が消えるたび河に輝く星の数が増えている気がする。
数えているわけでもないし河が流れているため確認のしようもないのだが。
時折見上げる黄昏色のその河は留まることなく星を流し続けていた。
それを見ていると、何故だか無性に私も進まなければいけない気がする。
どこまで行っても誰もいない、ただ遠くまで雲の景色が続いているだけだったが遠くに見える地平、天と地が交わる辺りが強く輝いているようで、私はそれを目指していた。
歩けど歩けど一向に近くなっているような気はしないが、疲れも感じないので苦ではない。


「だーれもいない」


異物ひとつない雲の大地はただひたすらに続いている。
不思議と寂しくはなかった。
まだ体に微かにご主人様に抱かれていたときの感触が残っていたし、何故かずっと、ご主人様の匂いが微かに付いてくるから。
本当に寂しいのは、何もないことだと私は知っている。
ここには私も体も、ご主人様やややと出会えた記憶もあるから寂しくはない。
でも、せっかく自由に動けるのだからご主人様やややが居てくれたらきっと楽しかっただろうとは思った。


「ご主人様がここに居たら、何したいかな?
抱きしめて、いっぱい好きって言って、あと、えっち・・・もしたいな」


してもらうだけじゃなく、私も何かしてあげたかった。
どんなことをすればご主人様は喜んでくれるだろうか。
そんなことを考えていると、積極的な自分が無性に恥ずかしくなって、私は両手で顔を覆った。


「夢の中でまでご主人様なのね、私」


今日初めて出会ったあの人が、自分の中ですっかり中心になってしまっていた。
ご主人様のことを考えると、幸福感でいっぱいになるのだ。

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