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十全十美の存在

ややと話してわかったことがある。
きっとラブドールとご主人様っていうのは、型に嵌める必要はないのだろう。
私は知らず知らずのうちにご主人様という存在を自分とは違う十全十美の存在だと思い込もうとしてしまっていた。
だって、ご主人様だから。ご主人様という言葉の重厚感に私は勝手なイメージを抱いていたのだろう。
本当はそうじゃなくて、ご主人様も私ももっと自由なのだ。
自由でいいのだと思うと自分の内にあった違和感がすっと消えていくようだった。
ご主人様という言葉に囚われる必要はない。
きっと私、私たちラブドールはご主人様にとって、恋人にも友達にも、何にでもなれる存在なのだ。


「私、なんかわかっちゃったかも。
ご主人様とラブドールって、ご主人様とラブドールでいいんだね、きっと。
無理に他の関係に例えたり、言い表したりしなくていいのかも」

「そうやね。
その時によって違ったりとかもするし。
あとドールによってもご主人様がどんな存在かって違うと思うし。
それよりなによりややこしいからご主人様はご主人様でいい!
てゆーか、ゆうみちゃんは難しいこと考えすぎやで!」

「あはは、なんか急に思いついちゃって。
ごめんね」


私は苦笑した。
私はいちいち細かいことで考えて悩んでしまう。
遠回りしないと答えに辿りつかないのだ。
いつも私の問いをすんなりと答えに導いてくれるややが羨ましくて、それと同時に巻き込んでしまうことが心苦しかった。


「ええよ、ええよ。
あたしはあんまり考えないタイプだから、ゆうみちゃんがそんなふうにいろいろ考えてるのすごいなって思うんよ?
あたしの方がゆうみちゃんより長生きなのに、時間がすっとんでるのも気付かんし。
自分にとってご主人様がどういう感じの存在か、なんて考えたこともなかったもん!
考えてみたらいっぱい不思議で、楽しいんやで!」


ややはとても楽しそうに笑って、話を続ける。


「例えばなんやけど、この部屋にちょうちょが入ってくるとするやろ」

「ちょうちょ?」

「うん、ちょうちょ。虫のな、ひらひらってしたやつなんやけどわかる?」


見たことはないけれど蝶が羽の生えた綺麗な昆虫だという知識はある。
私はわかると答えた。


「おっけー。
じゃあえっと、そのちょうちょなんやけど。
部屋に入ってきたら、あたしはわー、ちょうちょだー!って思うんやけど、ゆうみちゃんはきっと、ちょうちょの種類とか何処から来たのかとか考えると思うんよね。
あたしはそんなこと思いつきもしないんやけど、言われたら気になるし楽しい、みたいな」

「今思いついてるよ?」

「それはゆうみちゃんだったらどう思うんやろ?って考えたから!」


いじわる、とややが口を尖らせる。
意地悪をするつもりはなかったが、上げ足を取るような言い方になってしまったのは確かに意地悪だったかもしれない。
だが口を尖らせたややの様子はそれを嫌がっているという感じではなかった。

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